Doctor-MX(3) ランダムチェイス

前回は、チェイスの使い方について解説した。チェイスは、規則的に順番に点滅するようなケースももちろんあるが、よく「ランダムチェイス」が欲しくなるときがある。今回は「ランダムに見えるチェイス」の作り方の例を紹介する。

たとえば6台(6チャンネル)が点滅するチェイスを考えてみる。6台を順番ではなく、ランダムに点滅させるための最も簡単な方法は、Doctor-MXの「チェイサー」に搭載されている「不規則」を使う方法である。「チェイサー」の「方向」を、「順」「逆」「交互」「不規則」と選べる中の、「不規則」を選択する。そうすれば、一応、ランダムにはなる。

しかし、実際に照明を接続して「不規則」で点滅させてみると(あるいは画面上で「モニター」ないし「監視」機能で見るだけでもある程度わかる)、たしかに不規則ではあるが、何となく地味だし、同じ二つを往復したりする動きが意外に多く生じ、「ランダム感」が弱いと感じるのではないだろうか。

僕がランダムチェイスを作る際によくやる方法は、チェイスを二つ重ねる方法である。6チャンネルのチェイスの例で説明しよう。

まず一つチェイサーウィンドウを作る(仮に「チェイサー#1」とする)。このチェイサー#1で、Ch.401~406の6チャンネルのチェイスを作る(なぜ400番台を使うのかは前回を参照)。方向は「不規則」で良い。速さは「2.0(Hz)」ぐらいにしておく。チェイスの名前は、仮に「2.0Hzチェイス」とする。ここまでは通常よくある方法だ。次に、新しく別のチェイサーウィンドウを作る(仮に「チェイサー#2」とする)。このチェイサー#2を流れ図上でチェイサー#1のすぐ後にし、先ほど作ったチェイサー#1の「2.0Hzチェイス」をコピーする。そして、チェイサー#2のほうは、スピードを「3.1(Hz)」に変更し、名前も「3.1Hzチェイス」にしておく。二つのチェイスが重なったチェイスを見てみると、かなり「ランダム感」が増すことがわかる。速さはもちろん状況に応じて自由に設定すれば良いが、たとえば「2.0」と「3.1」のように、割り切れない比率にするのがランダム感を出すポイントである。

しかしこの方法だと、ランダムではあるが、ほぼ常に二つのチャンネルがついている状態になる。同時には1チャンネルしかつかないようなランダムチェイスは、どうやって作るか。これは実は、ステップ自体をランダムに並べ替えて、「順」で使うのが最も手っ取り早くて効果的である。先ほど作ったチェイサー#2は一旦OFFにして(例えば「素通り」にしておく)、チェイサー#1のステップを並べ替えて「1→4→3→5→2→6」の順にして、方向を「順」にする。実際の舞台で点滅させてみると、このほうが、方向を「不規則」にした場合よりも実はランダムな感じに見える。一巡だけでは繰り返しに見えてしまうようなら、ステップを倍使って「1→4→3→5→2→6→4→5→1→3→6→2」のようにすれば、まず規則的には見えない。

さて、このチェイスは、順番はランダムだが、スピードは一定である。スピードも不規則にしたい場合はどうすれば良いか。それには、スピードの異なるチェイスを二つ(あるいはそれ以上)を交互に不規則に切り替えて出力させる。この方法はちょっと複雑である。

先ほどチェイス#1で最後に作った、ステップ自体がランダム順になっているチェイスを、チェイス#2にコピーして、速度をチェイサー#1とは違う速度にする(3~4倍ぐらいの速さにするとわかりやすい)。そのままチェイサー#2を生かすと二つのチェイサーが重なった状態になる。しかし今は、二つのチェイサーを重ねるのではなく、交互に切り替えて出力する、ということをしたい。

そのために、まずチェイサー#1のほうについて、現在Ch.401~406のチェイスになっているのを、チャンネルをずらしてCh.407~412のチェイスにする。そうするためには、ステップの内容をいちいち書き換えるよりも、チェイサー#1のすぐ後(チェイサー#1と#2の間)に「パッチ」をはさみ、Ch.401→407、Ch.402→408、...Ch.406→412というパッチをしてしまうのが簡単である。そして、チェイサー#2の直後にもう一つパッチを入れ、今度は逆にCh.407~412をCh.401~406に戻す。これで、見かけ上は元の状態と同じである。

次に、チェイサー#2の直前(6チャンネルずらすパッチの直後)に「コンソール」を挿入し、Ch.407~412をatt(=アッテネート)する(アッテネートについては前回参照)。これで、このコンソールのマスターにより、チェイサー#1の出力を制御できるようになった。そして、このコンソールのマスターを、Ch.413でコントロール出来るようにする(メニューの[コンソール(C)]→[スライダー(L)]→[チャンネル(C)])。

同様に、チェイサー#2の直後にも「コンソール」を挿入し、Ch.401~406をattする。そして、このコンソールのマスターはCh.414でコントロールできるようにする。

かなりややこしいが、読解できるだろうか。流れ図の順がどうなっているかを確認のため書いておく

チェイサー#1
パッチ(Ch.401~406 → Ch.407~412)
コンソール(Ch.407~412をatt。これのマスターがチェイサー#1のマスターとして機能→Ch.413で制御)
チェイサー#2
コンソール(Ch.401~406をatt。これのマスターがチェイサー#2のマスターとして機能→Ch.414で制御)
パッチ(Ch.407~412 → Ch.401~406)

そして、これら全体の直前、すなわちチェイサー#1の直前に、新しいチェイサー(チェイサー#3とする)を置く。チェイサー#3には、Ch.413とCh.414が交互に点滅する2ステップのチェイス(仮に「マスターチェイサー」と呼ぶことにする)を作成する。マスターチェイサーの速さを「1.0(Hz)」にすると、1秒ごとにチェイサー#1とチェイサー#2が切り替わって出力される。すなわち、出力の見かけとしては、1秒ごとにチェイスのスピードが速くなったり遅くなったりする。1秒ごとの切り替わりではなく、ランダムに速度が変わるようにするには、マスターチェイサーのステップを増やし、たとえばCh.413がつくステップを3ステップ、Ch.414がつくステップを3ステップ、計6ステップとし、その「方向」を「不規則」にする。速さも適当に変える。これで、チェイサー#1とチェイサー#2がほぼランダムに選ばれるようになった。すなわち、速さがランダムに二段階で変わるチェイスの完成である。チェイサー#1とチェイサー#2の時間的比率(=チェイススピードの速い・遅いの割合)は、マスターチェイサーのステップ数で調節できる。たとえばCh.413がつくステップを2ステップ、Ch.414がつくステップを4ステップにすれば、遅・速の出現確率を1:2にすることが出来る。

これら全体の後に「コンソール」を置き、Ch.401~406をattすれば、そのマスターが、この「速さがランダムに二段階で変わるチェイス」のマスターとして機能する。
さらにその後に「パッチ」を置き、Ch.401~406を、実際に点滅させたいチャンネルに接続すれば完成である(この方法は前回解説した)。

以上、ランダムチェイスの作り方をいくつか紹介した。かなり複雑になってしまったが、読み解いていただけただろうか。今回の内容は、原理的な考え方のところは、Doctor-MXに限らず一般の調光卓のチェイス機能にも応用できる部分がある。たとえば複数のサブマスターに速さの違うチェイスを入れておき、それらを重ねて出力する、といった応用が考えられる。


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Doctor-MX(2) チェイスの扱い方

前回は、外部卓のフェーダーをサブマスター(シーンマスター)として使う方法を紹介したが、今回は、外部卓のフェーダーをチェイスのマスターにする方法をご紹介する。

Doctor-MXのチェイスはちょっとクセがあるので慣れないと使いづらい。本題に入る前に、念のためDoctor-MXの「チェイサー」の使い方をおさらいしておこう。

たとえば ch.11~13が点滅するチェイスを作るとしよう。「チェイサー」のウィンドウを開いたら、メニューから編集(E)→チェイスを作成(E)で一組のチェイスを作成する。この新しいチェイスにはまだ「ステップ」が一つも無いので、「コンソール」で1ステップ目(つまり ch.11だけが上がってる)を作り、その「コンソール」ウィンドウのフェーダー部分をドラッグして(フェーダーとフェーダーの間の部分をつかむ)、「チェイサー」ウィンドウ内の右の「ステップ」の所に落とす。これでステップが一つできた。同様に、 ch.12が上がった状態の「コンソール」から「チェイサー」ウィンドウのステップの所にドラッグして2ステップ目を作成。同じように ch.13が上がった状態の「コンソール」から「チェイサー」のステップの所にドラッグ。これで3ステップのチェイスが完成した。

Doctor-MXのチェイスはスタート/ストップが無く、ON/OFFも無い。なのでこのままだとこのチェイスは生きっぱなしである。チェイスを止めるためには、もう一つチェイスが必要である。そこで同じ「チェイサー」ウィンドウでもう一度、編集(E)→チェイスを作成(E)で新しいチェイスを作る。この新しいほうのチェイスには「ステップ」は作らない。ダミーのチェイスである。こうしておくことで、最初に作ったチェイスをクリックすればチェイススタート、ステップ無しのほうのチェイスをクリックすればチェイスストップ&OFFということになる。フェードイン・フェードアウトの数字を入れれば、チェイスのフェードイン/アウトも一応、できる。

チェイスを作る方法は、以上の方法が最も簡単である(と僕は考えている。もっと簡単な方法をご存知の方がいらっしゃいましたらご教示いただけますと幸いです)。で、チェイスを「作る」のはこれが簡単だが、舞台の本番で「操作する」ということを考えた場合、この方法では扱いづらい。特に、僕のようにいくつものチェイスを取っ替え引っ替えIN/OUTするようなスタイルの場合、きっかけのたびにPC画面上で操作をするのは、ちょっときつい。やはり、外部卓のフェーダーが、チェイスのマスターになるようにしたいところである。その方法を以下に説明する。

ちなみにDoctor-MXの「チェイサー」には、チェイサー(C)→チェイスミックスモード(M)というのがあり、これでも「チェイスのマスター」的な動きにならないこともないが、この機能は、Doctor-MXをごくごく簡易な(チェイス一つだけみたいな)方法で使う時のためのもので、僕たちが今やろうとしているような、シーンがいくつもあるような普通の舞台の現場では使い物にならない。なぜなら、チェイスミックスモードは「流れ図」上での、その「チェイサー」より上にある信号をスルーできないからである。また、コントロールするチャンネルも、「1~」に固定されている。

本題に戻る。では例として、外部卓の12番フェーダーが、「ch.11~13のチェイス」の、マスターとなるようにしてみよう。前回説明したように、外部卓の12番フェーダーは、「コンソール #12」のマスターになっているのであった。復習すると、「流れ図」の一番上に置いた「パッチ」によって、12番フェーダーは ch.512に飛ばされ、いっぽうで、「コンソール #12」のマスターが ch.512に設定されているのであった。その設定はそのままで良い。

作ろうとしているチェイスは、ch.11~13のチェイスだが、仮に「チェイサー #1」だとして、「チェイサー #1」ウィンドウでチェイスを作成する際、実際に点滅させようとしているチャンネル(ch.11~13)を使わず、ディマーがつながっていない遠いチャンネル、例えば ch.401~403が点滅するように作る。つまり、ステップ1=ch.401がON、ステップ2=ch.402がON、ステップ3=ch.403がON、というチェイスを作るのである。その「チェイサー #1」を、「流れ図」で「コンソール #12」のすぐ上に置く。次に、新しいパッチ(仮に「パッチ #2」としよう)を作成し、[401→11]、[402→12]、[403→13]だけのパッチをする(他のチャンネルはそのままスルー)。ここで注意すべき点は、[11→11][12→12][13→13]のパッチを切断しないことである。つまり入力側の11と401の二つが、出力側の11につながれた状態にするということである。この「パッチ #2」を、「コンソール #12」のすぐ下に置く。これで、「チェイサー #1」によって ch.11~13が点滅するようになった。

「コンソール #12」は、「チェイサー #1」と「パッチ #2」にはさまれた状態になっている。その「コンソール #12」で、ch.401~403のフェーダーをフルに上げ、これら3チャンネルの「チャンネル動作」を「アッテネート(att)」にする(フェーダーの上にある四角をクリックすると選べる)。これで、「チェイサー #1」の出力を、「コンソール #12」でブロックできるようになった。これで完成である。「コンソール #12」のマスターが下がっていると、ch.401~403が attで押さえられるので、その下の「パッチ #2」に ch.401~403の信号が行かない。つまり、「コンソール #12」のマスターが「チェイサー #1」のマスターとして機能する。

以上が、外部卓の12番フェーダーを ch.11~13のチェイスのマスターとして機能させる方法である。手間がかかるように思えるかも知れないが、これより良い方法は、おそらく無い。上記のようにすれば、ch.11~13は、チェイスで点滅させることができる上に、他のコンソール(#1~#11)でシーンの中に単に含めることもできる。普通のチャンネルとしても使えるし、チェイスさせることもできる、それを両立させるために、遠いチャンネル(ch.401~403)を使用するのである。


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Doctor-MX(1) 外部卓のつなぎ方

これから、不定期連載の形でDoctor-MXの解説(というか、僕個人がどのような使い方をしているか)を書いていきたいと思う。最初は画面のキャプチャ等が入ったわかりやすいものをやろうとも考えたのだが、一回の執筆作業を面倒なものにしてしまうと、連載自体が面倒になって続かなくなる恐れがあるので、あくまで文字だけで書くことにした。なので、読む方は、お手元のDoctor-MXアプリの動作を参照しながら読んでいただきたい。

(Doctor-MXについては、http://www.kuwatec.co.jp/doctormx/ を参照)

僕がDoctor-MXを使用する際は、原則として入力側に12chの簡易卓、LitePuter の CX-1203 を接続している。ただし、その代わりとなる卓が劇場にある場合は、劇場のものを入力卓として使用する。

入力側につないだ卓は、「サブマスター」あるいは「段マスター」的に使用する。具体的には、Doctor-MXの「コンソール」のマスターを外部卓のフェーダーで操作できるようにする。

そのためには、Doctor-MXの「コンソール」の「マスター」に、使っていない大きいチャンネル(500番台など)を割り当てる。マスターにチャンネル番号を振るには、「コンソール」ウィンドウで、メニューの[コンソール(C)]→[スライダ(L)]→[チャンネル(C)...]によって行なう。たとえば、「コンソール #1」のマスターを、チャンネル501に設定したとする。

そのマスターを外部卓で操作するために、Doctor-MXの「流れ図」の最初に「パッチ」を置き、そこで「ch.1→ch.501」とパッチする。そうすることで、外部卓のch.1が、「コンソール #1」のマスターとして機能する。

僕の場合、「コンソール」を12面開いて、それらのマスターをch.501~512に設定し、一方、流れ図の最初に「パッチ」を置いてそこでch.1~12をch.501~512にそれぞれパッチするようにしている。そうすることで、外部卓の12本のフェーダーが、Doctor-MXの「コンソール #1」~「コンソール #12」のマスターとして機能する。

しかし、「コンソール」を12面開き、それらのマスターのチャンネル設定をし、パッチをし、というのは手間も時間もかかる作業なので、現場ではやっていられない。だから、それらをすべて済ませた状態を、「12ch標準」という名前のキューシートとして保存している。そのキューシートを開けば、いつでもどこでも一発で12段プリセットの卓がDoctor-MX上に出来るというわけだ。


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