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円周率は3.14ではない

算数の話
2000.1.15

昨日電車に乗ったら、日能研という小学生のための予備校の広告があった。東京在住ならご存じの方も多いかも知れない、シカクいアタマをマルくする」という、あれである。昨日見た広告には「円の面積=半径×半径×3?ウソォ」とかいうキャッチコピーで、2002年からの学習指導要領改訂に対する批判的考え方が述べられていた。新しい学習指導要領によると、円の面積を求めるなどの際、2002年以降の小学校では円周率の数字として、我々の親しんでいる「3.14」ではなく「およそ3」を使用することになるらしい。このように2002年以降は学習内容が大幅に単純化され、子供達の学力全体が低下することになり嘆かわしい、というのが日能研の基本的主張である。

この、新しい指導要領で円周率が「およそ3」になるという話は、実は一部マスコミによる誤った解釈が元になっていることがわかった。実際には円周率の取り扱いが特に大きく変わるわけではなく、指導要領の記載も
「円周率としては3.14を用いるが,目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮するものとする。」
となっている。詳細は小学校学習指導要領の第3節、〔第5学年〕の項を参照 --- 2001.11.14 補足(学習指導要領のURLを2002.8.3に修正)

学習指導要領の改訂が良いか悪いかは、結論をすぐに出す自信がないのでここでは述べないが、「円周率を3.14じゃなくておよそ3にするなんて信じられない」という論調には少し疑問がある。それについて述べたい。

あらためて言うまでもなく、特殊な職業でない限り、円周率を日常生活で使用することはほとんどない。たまに使うとしても、「3.14」なんて厳密な数字は必要ないことがほとんどで、まぁ「3と少し」だということを知っておけば十分である。だからこそ新しい学習指導要領でも円周率は「およそ3」で十分だということになったのだろうが、「3.14」だって円周率の「近似値」であって、円周率そのものではない。「3」も「3.14」も円周率の「近似値」であるという点で、似たようなものである。ちなみに私は円周率を小数点以下30桁以上記憶している。一応書いておくと、円周率は約、3.1415926535897932384626433832795である。こんなことを記憶していても、少しも偉くない。同様に、円周率は「3」でなくて「3.14」だということを知っていても、少しも偉くないと思うのだ。ここにこの問題の本質がある。

そもそも、なぜ円周率が「3.14」だとわかるのか。
円周率を計算してみたことのある人はほとんどいないだろう。私は中学生ぐらいの頃に筆算で、高校生ぐらいの頃にパソコンで、計算してみたことがあるが、当時のパソコンで「3.1415」ぐらい、筆算では「3.1」ぐらいまで求めるのがやっとだったように記憶している。では、紐で円を作ってその長さを測る、という原始的な方法ではどうか。これも相当難しい。実はさっき実際にやってみた。直径20cmぐらいのボール(調理用)の口に、糸をぐるっと一周させ、その糸の長さとボールの直径を測り、比率を計算したのである。この方法で私が先ほど求めた円周率は「3.125」であった。つまりどういうことかと言うと、円周率が「3.14」であることを証明できる人は実際にはほとんどいないということだ。普通の人が、円周率は「3.14」だと思っているのは、単にそう記憶しているだけであって、自分で納得して得た数字ではない。円周率を30桁記憶していても偉くないと思うなら、円周率を2桁記憶していても同様に偉くないと思う。そんなことよりも、円周率は有限回の計算では求まらない半端な数である、という本質を理解することの方がはるかに重要である。

学習指導要領についてだが、円周率の話に限って言えば、私は日能研の意見には必ずしも賛成しない。「円周率は3.14だ」と鵜呑みにして覚えるより、「円周率はだいたい3ぐらいで、正確に求めるのは難しい」という認識を持っている方が、よほど健全だと思うからだ。

私の結論:「円周率が3.14である」と本当に自信を持って言える人はほとんどいないはずだ。


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岩城 保(Tamotsu Iwaki)
iwaki@letre.co.jp