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誤ったHTMLで迷惑するのは誰か

Webの話題
1999.8.23

WebページがHTMLという言語で書かれていることは大抵の方がご存じだと思う。HTMLがどんなものか見たことがない方は、一度見ておくことをおすすめしたい。今ちまたに普及している二大ブラウザなら、「表示」メニューから「ソース」ないし「ページのソース」を選択すれば、表示中のページがHTML言語でどう書かれているかを見ることができる。

HTMLも「言語」というだけあって(HTML= Hyper Text Markup Language)、文法というものが存在する。HTMLの文法は、World Wide Web Consortium(W3C)で定義されている。「文法」と言うからには、いかにも守らなきゃいけない感じがするのだが、じゃぁ文法が間違っているとWebページが表示されなかったりするのか、というと、そうでもない。というか、世界のWebページの中で完全にW3C推奨のHTML文法で書かれている(文法的に完全に正しい)ページは、間違いなく半分以下、控えめに見て1割以下、おそらく1%以下である。

HTMLの文法についても議論は多い。文法が守られていないページが多いことを非常に嘆いている人もいれば、「読めればいいじゃん」と言わんばかりに文法的に滅茶苦茶なWebページを公開している人まで、実に様々である。私自身はと言えば、文法ミスを犯さぬように勉強を重ね、だんだんと間違いが減ってきてはいる。このWebサイトの中でも、後から作成された部分(たとえばここ)などは、かなり厳格に文法が守られている。しかし、前回を注意深く読んだ方ならわかる通り、私の主張は(驚くなかれ)、

誤ったHTMLで書かれたWebページを作成・公開したって良い。そんなのは書く人の勝手。

である。言論の自由とはそういうことだと思う。

そもそもは、「文法」という言葉に罠がひそんでいるのだ。コンピュータを詳しく学んだ者、特に、プログラミング言語を学んだ者にとって、「文法」とは、絶対に守らねばならないもの、守らないとエラーが出るもの、という感覚がある。プログラミング言語の世界は、どんな些細な文法ミスも容赦しない。そして、コンピュータの世界で「言語」と言えば、それは「プログラミング言語」を指していた。HTMLもコンピュータで使う言語だから、コンピュータに詳しい者ほどHTMLをプログラミング言語のようにとらえ、いわば強迫的に文法を守ろうとする(私もその例外ではない)。しかし、HTMLはプログラミング言語ではない(ととらえる方が自然だと思わないか?)。HTMLを、「ブラウザにしかるべき表示をさせるためのプログラミング言語」だと考える人は少数派だと思う。

HTMLは、現状を見れば(もはや、あるいは最初から)プログラミング言語ではなく、記述言語である。だから、HTMLの文法について考える時は、C言語やPerlのようなプログラミング言語の文法と比較するのではなく、日本語や英語といった自然言語の文法と並べて考える方が現実的である。日本語の文法が多少間違っていようと、私たちは発言者の言いたいことを理解することができる。同様に、HTMLの文法が多少間違っていようと、受け取る者(ブラウザ)は、解釈してくれる。そう考えれば、「誤ったHTMLが氾濫している」という嘆きは、レベルとしては「最近の日本語は乱れている」というのと同じだということがわかる。

そう、それは「美しい言語とは」というような話題、つまりは感情論(「宗教論争」と言ったほうがわかりやすい方もいる?)なのである。どんな日本語を書いたって良い。世の中の、日本語で書かれた書物で、日本語の文法が最初から最後まで完全に守られているものはいったい何パーセントあるというのだ。だが一方で、日本語の乱れを憂う人がいても良い。HTMLもそれと同じだと思う。

誤ったHTMLを書いたからといって、誰かに被害が及ぶわけではない。ただ、それを読めない人がいるかもしれない。書いた人が「あぁ、この人はHTMLの文法を全然わかってない」とか「音声でHTMLを読む視覚障害者のことを考えてない」とか非難されるかもしれない。また一方、日本語の文法は滅茶苦茶でも、ものすごく面白い話をする人がいる。それを理解できない人もいる。それを馬鹿にする人もいる。HTMLの文法が滅茶苦茶なのに面白いWebページがある。それを賞賛する人もいる。それを非難する人もいる。

それでいいではないか。いずれにしても迷惑するのは発信者本人だけだと思わないか? ここは自由な世界なんだ。自由に行こう。

私の結論:誤ったHTMLで書かれたWebページを作成・公開しても、書いた本人以外は誰も迷惑しない。ただ、迷惑はしなくても、残念に思う人は多いかも知れない。


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岩城 保(Tamotsu Iwaki)
iwaki@letre.co.jp